2014/1/25
記憶を辿ると、山本耀司さんに手紙を書いたのは高3の夏休みだったと思うが、どこにも記録がないのでわからない。その手紙を書いてしばらくしてから、一通の手紙が届いた。茶色くザラッとした紙の横封筒で、差し出し人のところには、Y’s とあった。それを見た途端、頭のなかが真っ白になってしまって、夢中で団地の階段を駆け上がった。
封筒を開くと
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森下由香様
こんにちは。
山本耀司の秘書の者です。
この度は山本にお手紙をいただき、有り難うございました。
山本からの伝言を申し上げます。
一度オフィスにいらしてほしいとのことです。
なにぶん山本は交際の多い身ですので「幾度かお手紙を差し上げました森下です」と電話で仰って下さいとのことです。
ご幸運をお祈り申し上げます。
ワイズ 山本耀司代理
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とあった。実家に現物があるのでハッキリとはわからないが、何十度、いやそれ以上読み返したのでだいたいは合っているだろう。雷に打たれたかのように衝撃を受け、また、これこそが運命だと信じ込んだ。まずは母にこのことを知られないようにと、そのことばかりを考えた。
いつ電話をかけ、どうやってオフィスに出掛けたのかは覚えていない。Junの白い男物のシャツに、膝丈の緑色の大きなチェックのウールのスカート、黒いロングブーツを履いていったのはハッキリと覚えている。
オフィスは西麻布にあった。もともと地図を見て知らないところへ行くのは得意だったので、迷うことなく辿りつけた。たぶん日曜日だったかと思う。
小さな建物の一階には大きな段ボールが山のように詰まれていて、黒か紺の服を着たスタッフが忙しく働いていた。
「あの、山本先生に会いに来たんですけど…」と声をかけると、その男性はいぶかしげな顔をして私を見ていたが、そのまま黙って立っていると、少しだけ嫌そうな顔をして「ちょっと待っててください」と言って、階段を上って行った。