2014/10/24
T叔父さんは親類で一番好きな人だ。優しくてなんも喋らない人だった。喋らないのに、故郷の鹿島に帰ると友達がたくさん居た。
横浜の小さな長屋に住んでいる頃、長屋の前の砂利道で一人で遊んでいたら、ふいに目隠しをされた。「だーれだ?」と聞かれてわからないでいると、当時法政大生だったT叔父さんが笑って立っていた。 「おかーさーん、Tおんちゃんが来たよー!」と縁側から叫んだら、「バカ言うんじゃないの」と母が答えた後、弟の姿を見てパッと明るい笑顔に変わった。母も、一番下の弟であるT叔父のことがとても好きだった。
母はちょうどアポロの月面着陸の衛星中継を見ていたところで、それから三人でモノクロの月の映像を眺めたんだ。
幸せな時間だった。