2013/11/3
私のはじめての記憶は、言葉を覚えたばかりの頃だ。両親と地方都市に住んでいた。父はまだインターンだった。
ある日曜日、父は職場でもある大学へ私を連れて行った。そして嬉しそうに或る部屋へ案内してくれた。部屋の中には研究用のネズミが入った籠がたくさん積み重ねられていた。
私がのぞき込んでいると、突然一匹のネズミが抜け出した。ちいさく真っ白なネズミは、柔らかに、銀色の籠のむこうを駆け抜けていった。
あっ、逃げた!!父は驚いて、それから二人で顔を見合せて笑った。
帰り道、父の同僚に肩車されながら、私は私の背中を眺めていた。
あたたかな、とても静かな午後だった。