山本耀司さんは「コレクションのチケットは送ってあげますから見にいらっしゃい。時々連絡してください」と仰っていたが、母の話を聞いてそれどころではなくなった。山本さんに一瞬で見抜かれたと思った。私はボタンひとつまともに付けられない。服飾の道に向いてる筈はなかった。というより、そもそも表現したいものなんて自分のなかにこれっぽっちもなかったのだ。
その後は「自分に何が向いているのか、何が好きなのか、探すと良い」と言う言葉を抱えて長い月日を彷徨った。これだ!と思っては違う、を繰り返し、私は当時の山本さんよりずっと大人になってしまった。私があの日以来入り込んだ迷宮の出口は見つからなかった。
どこにも書かずに封印していたこれらのことを文字にしてみようと思い立ったのは去年の1月だ。どうして今更書く気になったのかな?とにかく蓋を開けてみようと思い立った。それなのに、あっというまに勝手に傷ついて再び1年以上も封印してしまった。
最近になって思ったのは、迷宮の先に3年前の渋谷川沿いのクラブがあったんだということ。頭バーで感じた『再び始まった』という気持ちは、十代からの、長い迷宮の先の出口だったのだ。
(2014年)