西麻布から帰ってきた私に対して、母はいつも以上に執拗に詳細を尋ねてきた。仕方なくワイズから届いた茶封筒を見せ、出来事を話し、卒業したら文化服装学院に行きたいのだと話した。疑り深い母がその話を信用する筈はなく、六本木(母にとっては西麻布も六本木も同じ)の洋服屋さんの中年の男に娘が騙されたという、とんでもないストーリーに作り替えて憤慨していた。母が私の話を信用しないのはいつものことだったが、その夜は特に酷かった。
その数日後、突然母が「山本さんにお母さん電話したわ」と言ってきた。目の前がフッと暗くなるようないつものパターンだった。「 あの人はなかなかちゃんとしていて、お母さんの話をよく聞いてくれたし、あの人の話すことも正論だった。おかしな人のところに行ったのではないとわかりました」 でも、、、と勝ち誇ったような表情で母は話を続けた。 山本さんはあなたはこの道に向いていないとハッキリ言ってたよ。手紙をもらって一度会って話してみたいと思ったんだって。パリにもうすぐ行くので大事な時なんだけど、直接話してみようと思って返事を出したそう。けれど現れたあなたは既製品を着てた。ひとつも手作りのものを身につけてなかった。「この道に進む人は、どんなに裁縫が下手でも必ず自分で作ったものを身につけてる。必死で表現しようとしている」って。だからあなたをパッと見たときに、向いてるのはこの道ではないだろうと思ったそうよ。
母は自分と山本さんの考えが同じだったことで、まんざらでもない様子だった。