10才にも満たない頃、目の前の赤いリンゴを眺めているうちに、突如絶望したことがあった。失望ではなくて絶望だ。「ああ、こういう風にリンゴを見る人は、私の他にはいないんだ、、、」と思ったのだ。その時のとてつもない孤独感は、以来、私の底に流れ続けている。
この感覚とあまりに長く付き合ったために、景色の見え方が偏ってしまった。わざわざ薄いブルーを重ねて、わざわざ他人と距離を取る。そうするのは自分を守るためだ。偽の孤独を作っておくことで私は自分を守ってきた。思えば私は自分ばかりを守っている。いつも出入り口のそばにいて、いつでも出られるようにドアノブに手をかけている、そんな人生だった。
今日は待ちわびていたアルバムを聴きながら賑やかな街を歩いた。ネガフィルムを重ねるように、懐かしい景色と自分を重ねてみる。
薄いブルーを乗っけないととてもみじめだ。水の中で泳ぐように人のなかを泳いだ。
孤独でないと知ることは本当はこわい。ウィンドウに映る自分を避けるように歩いた。
2017年。
新たな問いを携えて、赤いリンゴは再び私の目の前に現れた。