2013/9/26
その人をそばで見たのは、20年以上も前のことだ。当時関わっていた番組のテーマソングをつくって歌ってくれるとのことで、録音に立ち会うスタッフに付いて行ったのだ。
その人のことは少しは知っていたけど、そんなには知らなかった。曲も聴いたことはあるけれど、そんなには聴いたことがなかった。でも私の周りにはその人のファンがたくさんいた。だから私はちょっと得意でハイテンションで、中野のスタジオまで出掛けてったのだ。
小さな古いスタジオの長椅子には、とても華奢なその人がちんまりと座っていた。笑うでもなく、不機嫌でもなく、誰を見るのでなく、見ないのでもなく。その人は静かに座っていた。
やがて録音が始まって歌い出した時、ガラス窓の向こうでなにかがばーーーんと爆発したのだ。
周りの景色がいっぺんに変わったのだ。
帰り道、自分のことがなんだかかっこうわるく思えた。とても凡庸で浅薄に思えた。
その日以来私は、何日も何か月も何年も、その時の静けさについて考えている。