とても懐かしいものを目に(耳に?)しました。
子どもの頃の私は、真面目な母によって、たくさんの情報から離されていました。民放放送はだめ、夜のドラマはだめ、漫画はだめ、友達と遊ぶのもだめ。なので、小学生の私にとっては、母のいない時間にこっそりと外国のドラマやセサミストリートを見たり、近所の本屋さんで文庫本を買ったり、雑誌の「Peanuts」を買うことが楽しみでした。
そしてもうひとつ。一番刺激を受けたのは、資生堂から無料で刊行されていた「花椿」という薄い雑誌で、母の買い物に付き合った際に化粧品屋の店先からもらってくるのですが、これが何よりの楽しみでした。「花椿」は、当時の最先端のファッションや情報が載っており、のちに私が延々と恋い焦がれた世界が詰まっていました。小学生の途中から高校生になるまで毎月集め、気に入った号は二冊もらい、一冊は切り抜いて手帳に貼ったのです。高校時代の友人、稗田玲子と初めて話したのもその雑誌のことでした。連載記事の「いまなに流行ってるの?」を”りゅうこうってるの?”と言って、稗田にクスクス笑われたのです。「ワカメ(私の愛称)、それ、はやってるって読むんだよ」と、すごく可笑しそうに教えてくれました。
資生堂は、私の憧れのほとんどすべてを内包していました。生まれて初めて買った香りは、資生堂の「スーリール」というオードトワレで、今は販売されていないのですが、グリーンノートを基調とした不思議な香りが大好きでした。夜中にこっそりとつけて、まだ見ぬ都会の風景や大人の世界を想っていたのです。CMでは「ゆれる、まなざし」というものが好きで、曲も映像も、印象に残っています。
必死で手を伸ばしていた世界はあの時には見つけられなかったけれど、こうして今、時間を超えて出会えたようで、とても嬉しい気持ちになりました。
(2016/7/5)