2014/1/19
母と二人暮らしになってからは、私の将来はほぼ決められていた。
結婚という夢に破れた母は、職業婦人だったということもあり、「女はひとりで生計を立てられる職に就かなければいけない」という固いポリシーを持っていた。さらに母がこだわったのは、いつの日か父に「自分が捨てた娘はこんなに立派になった」と思わせることだった。出来れば父と同じ職に就いてほしいと願う母をよそに、長ずるにつれ私は成績が落ちてゆき、高校では下から数えた方が早いぐらいだった。中学の時は美術部だったけれど、「絵が描けても将来食べていけない」との母の考えで、高校に入ってからは辞め(させられ)てしまった。アートに対する私の思いはねじれてしまい、そのうち「好きなものは何か?」さえわからなくなってしまった。そんな風なので、高3になっても、どの大学を目指せば良いのかまったくわからなかった。
そんな或る日、通学バスのなかで樋口先輩にバッタリ会った。樋口先輩は中学時代の美術部の一級上で、時々洋楽の話をしたり誕生日にレコードを贈ってくれたりした、気が合うとても優しい人だった。久し振りに会う先輩はなんだかしゃっきりしていて様子が変わっている。
「オレさ、いま、文化服装学院に通っているんだ」
「文化の出身者は~な人がいるんだ」
「~なことをしてるんだよ」
樋口先輩から聞く話はなにもかも目新しく、ワクワクした私は翌日本屋で「装苑」を買い、夢中で読みふけった。そのなかでもとびぬけて心揺るがされる文章と、惹かれる洋服に目が留まった。それが『ワイズ』の山本耀司さんだった。
これだ!!と思い込んだ私は、さっそく彼に手紙を出すことにした。