2015/12/22
きっこと初めて会ったのは渋谷の宮下公園向かいのメトロビルに入っていた住宅供給公社でのバイトで。当時青学生だった赤間ちゃんや、札幌からフラッと来てそのまま住みついているみっちゃんや、青森から来た長谷川君。福岡から来た女の人もいたなあ。そのみんなは分譲担当で私だけ賃貸担当。きっこはとても綺麗で背が高くて格好良かった。以前は都立高校の現国の先生をしてたのだけど辞めてしまって。それでちょっと休むのも兼ねて気楽にバイトしようかなと思ったらしいです。
その頃はかわいこぶる女の子が流行り始めていた。けれど私は、歩きタバコして休みの日は府中の競馬場の芝生で一人でお昼寝するような女の子だったので、そういう風潮が本当に嫌いだった。なので、きっこのカラッとした格好良さが好きだったのです。
或る時、西武デパートのリバティショップで小さなポプリのキーホルダーを見つけて2つ買って1個をきっこにプレゼントしたのが仲良くなった始まり。私はいきなり「お近づきのしるしに」と言ったらしい。「へんな女の子がなついてきた!」と当時の彼に話していたそうです。
彼女は東急田園都市線のはずれに住んでいて、実家に帰りたくない私は年中きっこの家に泊めてもらっていた。陽がよくあたる古いアパートで、間取りがとてもゆったりしていた。アパートに帰る前、駅からの通り沿いのお魚屋さんに隣接する居酒屋で、二人で日本酒をひっかけた。きっこの彼が一緒の時も多かった。あの頃の私はなぜかすごくよく呑んでいたな。
私は住宅公社を半年くらいで辞めることになって、それでもきっこん家には泊まりに行ってた。「いつまで泊まる気なんだろう?」と彼女が思う頃にはふっといなくなって、しばらくは来ない。「由香は勘のいい野良猫みたいだ」と言ってた。褒め言葉のように思っていたけれど、ほんとよく怒らずにいてくれたなあと思う。
その後、きっこは公社で数年働いたあと次のバイト先に行きながら編集の学校に通い、晴れて編集者になった。数年後に手がけた本「ブッタとシッタカブッタ」シリーズはベストセラーになって、再会した私にプレゼントしてくれた。すごく綺麗だけれどツンとしてないし、謙遜もしない。カラッとした格好良さはいつも通りだった。
「ホラ、私、由香を受け入れられるくらいだから。優秀だから」といたずらっぽく笑ってたけど、ほんとにそう思ってるよ。
またあの頃に戻れたら、寒空の中、ばかみたいにお酒を呑んでみたいな。