私は大人の恋愛(プラトニックじゃない恋愛)が苦手です。どのくらい苦手かというと、いまだにふさぎ込んでしまうくらいです。
そんな風になってしまった一番最初は?なんて聞かれたとしても、今となってはわかりません。けれども忘れることの出来ないとても大きな出来事がありました。それは小学校5、6年の時に担任だったM先生という男性との出来事です。M先生は私の父母より歳上で、私より1才上の娘さんがいました。仲の良いご家族だったと聞いています。隣の駅の瀟洒な住宅街に一戸建てを構えていました。
西日本の国立大学を出ていて、音楽に造詣が深く、教室の片隅には先生が自宅から持ち込んだ小さなオーディオがあり、休み時間にはクラシックを流していました。M先生は「みなで合奏しよう」と生徒から有志を集い、毎日始業前の早い時間に厳しい練習をしました。その甲斐あって私たちの合奏チームは区で優勝し、市のコンクールにも出場することが出来ました。分校から小学校になったばかりの歴史のない学校だったので、それは新聞にも載るほどの快挙でした。M先生は学校中のお母さんたちの憧れの的になり、尊敬もされるようになりました。もちろん私も、私の母もそうでした。
5年生の夏休み頃から、どういう訳かM先生は放課後や休みの日にうちに電話をかけて来るようになり、時々私を学校に呼び出しました。職員室に出掛けても特に用事はないのです。(私と会うと)「ホッとする」とか「居てくれると嬉しい」とか言われ、私はシーンとした空間の中でただ椅子に座っているだけなのです。
今でしたら「なんかおかしいな」となるのでしょうが、当時はのどかな時代でした。それに先生は皆の憧れと尊敬の対象でしたから、特別に呼び出されることは嬉しかったのです。私は大好きな父と離れて暮らしていたので、そういう淋しさを埋めていたのかなとも思います。
先生はジュースを買ってくれることもありました。他愛ないお喋りをして、日が暮れてしばらくすると帰るのですが、帰り際に私を抱き寄せて、髪の毛を撫でたり、じっと顔を見たり、髪の毛の匂いを嗅いだりする時もありました。決まって「ゆかはいい匂いがするんだ」とポツンと言うのでした。
いったいそのあと何がどうなったのかはわかりませんが、5年生の或る秋の夜に、先生はうちに泊まりに来ることになりました。宿直の日だったようです。その日は土曜日で、休み時間に先生の机まで呼ばれ「今日の夜、ドアの鍵を開けておくようにお母さんに言っておいて」と言われました。